打捨うつちや)” の例文
人間といふものは、打捨うつちやつておくと、入用いりようのない、下らない事を多く記憶おぼえたがつて、その代りまた大切だいじな物事を忘れたがるものなのだ。
成程なるほど。」と蘿月らげつ頷付うなづいて、「さういふ事なら打捨うつちやつても置けまい。もう何年になるかな、親爺おやぢが死んでから………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は今に若も彼奴が親方の言葉に甘へて名を列べて塔を建てれば打捨うつちやつては置けませぬ、たゝき殺していぬに呉れます此様いふやうに擲き殺して、と明徳利の横面突然いきなり打き飛ばせば
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
みのるの自分の藝に對する正直な心が、自から打捨うつちやつた作をその儘明るい塲所へ持ち出すといふ樣な人を食つた考へに中々陷らせなかつた。みのるは何時までもその前半をいぢつてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
華族と法律とをこしらへる事を情慾のやうに心得てゐる国家が、何故「音曲おんぎよく」に関する法律だけは打捨うつちやぱなしにしてゐるのか理由わけが分らない。
世間には三年打捨うつちやつておいても、髪の毛一本伸びないやうな頭もあるが、記者の髪の毛は不思議によく伸びるので、始終しよつちゆう理髪床かみゆひどこの厄介にならなければならぬ。
「君が自分で説明したらいぢやないか、君は何時いつだつたか、青銅ブロンズで馬の模型モデルを作りかけて鋳上げる事もしないで、打捨うつちやぱなしにしたぢやないか、いい恥晒はぢさらしだね。」
船橋氏は記念かたみの『欧山米水』を取り出して、一寸ちよつと表紙の埃をはたいて読みかけてはみたが、別に軍人を天使のやうに書いてもなかつたので、その儘打捨うつちやらかして了つた。
雷といふのは、多分雷鼠らいねずみの事で、打捨うつちやつておくと、芋の根をひ荒して仕方がないさうだ。