あこが)” の例文
けれど皆祖父母や親達の口から、西京さいきやうと云ふ大きい都、美くしい都の話だけは聞いて居て、多少のあこがれを持つて居ない者はないのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
陰鬱いんうつな気候風土や戦乱のもとに悩んだ民族が明るいさちある世界にあこがれる意識である。レモンの花咲く国にあこがれるのは単にミニョンの思郷の情のみではない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
彼には、物乞いをする恥と、むしろ死にたいという望み——再び醒めざる眠りにおちたら如何に楽だろうというあこがれがあるだけで、その外に何の考えとてもない。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
遠いものにあこがれることによってその悲しみを処理していくという姿との二つの姿が、彼らをして、空間を形づくり、空間を取り扱う二つの型をもたしめるのである。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
二十はたち未滿の女が小説で知つてゐる東京にあこがれて、東京の何とか云ふ英語學校へ入つて、學問で身を立てゝ、一生獨身で通すといふやうな乳臭い言ひ草を眞面目に聞いて
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
その私が、もう十六にも七にもなって、自分にもわからぬある不思議な力にひかれて、何ものかをあこがれもとめたことに、何か重大な罪悪でもひそんでいたと、父や叔父は言うのであるか。
この少女の胸には、セエラをあこがれる気持が湧き始めていました。
予等は日夜欧羅巴ヨウロツパあこがれて居る。こと巴里パリイが忘れられない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
(今の世の中に、夢の中の恋人にあこがれる男があろうか……)
蝕眠譜 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
私は近年欧洲へ旅行するまでは、日本という世界の片隅にいて世界にあこがれている一人の世界の浮浪者であった。日本よりも世界の方がより多くなつかしかった。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
彼女だって以前もとは人並に贅沢もしたかっただろうし、歓楽にあこがれもしただろうが、今はそんなことはすっかり断念あきらめて、只もう生きてゆくだけで満足しているのであった。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しかも彼らがほかの民族におさえられている時、その絶望的な悲しみは、かかるあこがれの魂、遠い神のすくいの、メシヤの国の出現に対する、遠い願いとして、彼らの願いは
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
僕等は古今の天才の芸術にあこがれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
また反対に女子もまた刺激にあこがれる心や食物その他の変革から従来の体質を漸次一変して性交の欲望を自発し、あわせて男子と斉しく老ゆることも遅くなるであろうか。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)