情痴じょうち)” の例文
女史は、女理学士認定の蔭に所長となにかいまわしい関係を結んだものらしくその情痴じょうちの果に絞殺事件が発生したと伝えられる。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東京新聞のY先生(なぜなら彼は僕のの師匠だから)が現れての話でも、世間ではもっぱら情痴じょうち作家とってますが、御感想いかが、と言う。
余はベンメイす (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「その時はその時だ、捲かれてよかったらそのまま捲かれていてもよいし、悪かったら抜ければいい、情痴じょうちの世界はその日ぐらしでいいもんだよ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一代の柔い胸の円みにれたり、子供のように吸ったりすることが唯一ゆいいつのたのしみで、律義な小心者もふと破れかぶれの情痴じょうちめいた日々を送っていたが
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ことにまた、ご自身に、お疑いのかかるような後ろぐらい行状があれば、なんで、情痴じょうち惻々そくそくと打つような恋歌などを、歌会の衆座になど詠みましょうか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ベシイ・マンディからきあげた金で、彼らのうえに、またとうぶん情痴じょうち懶惰らんだの生活が続いた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
多少のいやらしさ、なまぐささもあるべきはずの女としての魂、それが詰め込まれている女の一人として彼女は全面的に現れて来ない。情痴じょうちを生れながらに取り落して来た女なのだ。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ちょうどこの種の文学で馬鹿にされていた最も有りふれたる民間の小さな情痴じょうちが、しばしば聯想によって引き出されてすわっており、それがまた絵巻物にでも見るような上﨟じょうろうのローマンスと交錯して
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「まずこれは、お取上げにならんほうがいいでしょう。自体、男女の情痴じょうちもとですからな。洗い立てすればするほど、なにかと工合の悪いことも生じてきますし」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そいつは言わないのがいいでしょう。情痴じょうちの世界に、祖国も、名誉もありますまい」
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「眠っているところを、一突きに、刺し殺されたものと思う。——情痴じょうちの遺恨だな、これは」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思いがけない情痴じょうち事件の駅を後にして……。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
西の丸の女たちの群れのなかに、彼の姿は、他愛のない、一個、情痴じょうちの人間として、った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(女というものは、どうしてこんなに、情痴じょうちなのであろう)玉日は、自分の心をふかく掘り下げてみて、そこにわれながら浅慮あさはかなさまざまな邪推やらひがみが根を張っているのに気がついた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)