悩乱のうらん)” の例文
旧字:惱亂
生まれて、二十年もの後、その子清盛をして、悩乱のうらんせしめなければならないのか。そのこと自体のほうが、よほど、ふしぎといってよい。
不馴ふなれのためにペンが横へれるかも知れませんが、頭が悩乱のうらんして筆がしどろに走るのではないように思います。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そぞろに門附かどづけを怪しんで、冥土めいど使つかいのように感じた如きは幾分か心が乱れている。意気張いきばりずくで死んで見せように到っては、益々ますます悩乱のうらんのほどが思いられる。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
節々ふし/″\の痛みがおびたゞしく毛穴が弥立よだって、五臓六腑悩乱のうらん致し、ウーンと立上るから女房は驚いて居ると、喜助は苦しみながら台所へ這い出してガーと血の塊を吐いて身を震わして居る。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なんともしかねる奇妙なことが起き、このまま捨ておいては、たったひとりの娘のいのちにもかかわろうという大難儀で、わしも、はやもう、悩乱のうらんして、どうしよう分別ふんべつも湧いて来ぬ。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
東峰と西峰にいわゆる兵法の“まぎれ”を伏せ、山の小道を“悩乱のうらんの迷路”に使い、また道を河にするには山寨さんさいの貯水池を切って落したものなのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悩乱のうらんのうちにまだ一分いちぶん商量しょうりょうを余した利巧りこうな彼女は、夫のかけた鎌をはずさずに、すぐ向うへかけ返した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とか何とか、毒づいたかも知れませんが、こんな場合はかえって、叱咤しったしてやるのが当人のためで、狂喜させる甘い言葉はいよいよ悩乱のうらんさせるばかりでしょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と一念になって言ったが、自分でも何を叫んでいるのか分らない悩乱のうらんにくるまれていた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慚愧ざんきに打たれて、母の厳戒を心に噛み、自身の不覚を悔い悩んで、ともに泣き伏したまま悩乱のうらんの面も上げずうっ伏していたが、ふと帳のうしろで、異様な声がしたので、愕然、駈け寄ってみると
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは極度にうろたえた、悩乱のうらんした、半狂乱のていになった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)