思立おもいた)” の例文
やや完全に演ぜんなぞと思立おもいたたば米や塩にまで重税を課して人民どもに塗炭とたんの苦しみをさせねばならぬような事が起るかも知れぬ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
汽車中きしゃちゅう伊達だて大木戸おおきどあたりは、真夜中のどしゃぶりで、この様子では、思立おもいたった光堂ひかりどうの見物がどうなるだろうと、心細いまできづかわれた。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年達のため挿絵をかきながら、物語の方も自分でかいて見ようと思立おもいたって、そのころまだ私の手許てもとから小学校へ通っていた子供をめやすにかいたのが巻頭の数篇です。
はしがき (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
その頃徳富蘇峰とくとみそほう朝比奈碌堂あさひなろくどう森田思軒もりたしけんの三人が新らしい文人の会合を思立おもいたって文学会を組織した。蘇峰と碌堂とは新進第一の論客として勢望既に論壇を圧していた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
思立おもいたった訳である。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「大先生は、急に思立おもいたったとありまして……ええ、黒姫山へ——もみじを見に。」——
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遊びたい気があれば勉学の心も失せないわけである。述作の興味もくわけである。一夜ある人の薗八節そのはちぶしを語るを聞きわたしもその古調をあじわい学びたいと思立おもいたって薬研堀やげんぼりの師匠の家にかよっていた事がある。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)