忍返しのびがえし)” の例文
しかしてすべてこの世界のあくまで下世話げせわなる感情と生活とはまたこの世界を構成する格子戸こうしど溝板どぶいた物干台ものほしだい木戸口きどぐち忍返しのびがえしなぞいう道具立どうぐだてと一致している。
「あいよ、」という声、ひねった紙包が宙を切って、忍返しのびがえしの釘をかすめてはたと二人の前に落ちる。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
池かと思うほど静止した堀割ほりわりの水は河岸通かしどおりに続く格子戸づくりの二階家から、正面に見える古風な忍返しのびがえしをつけた黒板塀の影までをはっきり映している。丁度汐時しおどきであろう。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
突出つきだしひさしに額を打たれ、忍返しのびがえしの釘に眼を刺され、かっと血とともに総身そうしんが熱く、たちまち、罪ある蛇になって、攀上よじのぼる石段は、お七が火の見を駆上った思いがして、こうべす太陽は
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)