必須ひっす)” の例文
それはわれわれの言語を組み立てている因子の中でも最も重要な子音のあるものの発音に必須ひっすな器械の一つとして役立つからである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
風雨一過するごとに電燈の消えてしまう今の世に旧時代の行燈あんどうとランプとは、家に必須ひっすの具たることをわたしはここに一言して置こう。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寿司に生姜しょうがをつけて食うのは必須ひっす条件であるが、なかなかむずかしい。生姜の味付けに甘酢あまずひたす家もあるが、江戸前としての苦労が足りない。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
たとえばランプとか飯茶碗とかいったような日常必須ひっすの所帯道具のように馴れっこになってしまったのかもしれぬ。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
とにかく霜柱の出来るために必須ひっすな条件は、微粒子が存在することであるという重大な結論を得たのである。
「霜柱の研究」について (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
現代の政治家の資質として重要なのは、少なくとも一つは、大規模な生産組織や、大衆運動や、労働組合に対する指導力を持つことで、広い意味での経営者的な組織力をそなえることが必須ひっすである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
但しこの後のものはそれ自体としては独立し得ず、常に前の意味と結びついてのみ存在するが、詩は本来情的な主観芸術である故に、特にこの点が重要視され、表現の必須ひっすなものとして条件される。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もっと弘い区域にわたって観察し記述する人がきっと出てくることであろうが、特に自分などの重視している点は、第一には沐浴もくよく必須ひっすの条件としていることで、是は朝家の嘗の祭とも一致している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今度いよいよ本邦人の講義も必須ひっす課目として認めるに至った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
待ツノ止ム可カラザルニ至レリ居ルコト年余偶々たまたまぼうヲ理科大学助手ニ承ケ植物学ノ教室ニ仕フ裘葛きゆうかつフル此ニ四回時ニ同学新ニ大日本植物誌編纂ノ大業ヲ起コシ海内幾千ノ草木ヲ曲尽シ詳説しょうせつけいトシ精図ヲトシ以テ遂ニ其大成ヲ期シまことニ此学必須ひっすノ偉宝ト為サント欲ス余幸ニ其空前ノ成挙ニ与リ其編纂ノ重任ヲかたじけのフスルヲ
しかしいかなる場合にでも、その研究者が物理学現在の全系統について、正しい要約的な理解を持っていることだけは必須ひっすな条件である。
物理学圏外の物理的現象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
このしょ今にいたるもなほ斯道しどう研究者必須ひっすの参考書たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
単なる科学教育者にはとにかく、科学的研究に従事する者にはさらにいっそう重要必須ひっすなことである。
科学者とあたま (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そういう意味でルクレチウスのこの態度は、むしろ今の科学者に必須ひっすなものと考えなければならぬ。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もしもそうだとしたら、このわがままもやはり進化論的の見地から重要な意義をもって来る。そうしてそれは人類の保存と人間社会の円滑な運転に必須ひっすな機巧の一部をなすものかもしれない。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だれでもが指揮者になれない理由はそこにあり、芭蕉七部集の連句には一芭蕉の存在を必須ひっすとした理由もここにあり、さらにまたたとえば蕪村ぶそん七部集の見劣りする理由もここにあるのであろう。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)