心覚こころおぼえ)” の例文
旧字:心覺
そのころ、わたくしはわが日誌にむかしあって後に埋められた市中溝川の所在を心覚こころおぼえしるして置いたことがある。すなわち次の如くである。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
余は遂に料理のなかばを残して喰はず。飯終りて湯桶ゆとうに塩湯を入れて出す。余は始めての会席料理なれば七十五日の長生すべしとて心覚こころおぼえのため書きつけ置く。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
五助は身をひねって、心覚こころおぼえうしろざまに棚なる小箱の上から、取下とりおろした分厚な一てつの註文帳。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
程経ほどへさい心覚こころおぼえにつけた日記を読んで見て、その中に、ノウヒンケツ(狼狽ろうばいした妻は脳貧血をかくのごとく書いている)を起し人事不省におちいるとあるのに気がついた時、余は妻は枕辺まくらべに呼んで
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私に心覚こころおぼえちゃんとある。先ずおよそ山の中を二日も三日も歩行あるかなけれゃならないですな。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)