御殿おとど)” の例文
秋風のにも虫の声にも帝が悲しみを覚えておいでになる時、弘徽殿こきでん女御にょごはもう久しく夜の御殿おとど宿直とのいにもお上がりせずにいて
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
後醍醐も、后町きさきまちのどの妃の局へもお通いは見えなかった。ひとりよる御殿おとどに悶々と御寝ぎょしもやすからぬご様子だった。
夜の御殿おとど宿直所とのいどころから退さがる朝、続いてその人ばかりが召される夜、目に見耳に聞いて口惜くちおしがらせた恨みのせいもあったかからだが弱くなって
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すぐあとについて、坊門ノ清忠たち列座の公卿も、みかどのこもられた昼の御殿おとどへと、ぞろぞろ伺候して行った。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女官は歯の根も合わず「……中殿ちゅうでんの東北にあたる“よる御殿おとど”でいらせられます」と答え、賊が走り去ったすきに、こけ転んで、天皇の御帳みとばりの内へ、かくかくと密奏した。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よる御殿おとどのあたりから、かり御息所みやすんどころの部屋部屋には、廉子の枕や、権大納言ノ局の黒髪も、それぞれ、みじかい仮寝を磯風のの下にひそめていたが、まもなく暁の鳥の
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ど、ど、どッ——と盲目的に駈けまろんで行き、彼方のよる御殿おとどのひそまりへ向って
このさいにおける英断には、玄以げんいに学んだ儒学じゅがくも、大燈だいとう夢窓むそうの両禅師からうけた禅の丹心も、その活機を見つけるところもない幾十日の昼の御座ぎょざよる御殿おとどのおん悩みらしかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みかどがよる御殿おとどにいることなく、栄子の几帳とばり后町きさきまち局々つぼねつぼねを、毎夜毎夜かえておいでであろうと、帰るところは自分のほかにないものときめていた。またそう信じていいだけの理由もある。