役得やくとく)” の例文
「そうともそうとも。こうなったら、いそいでくれろとたのまれても、あしがいうことをきませんや。あっしと仙蔵せんぞうとの、役得やくとくでげさァね」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こういうことは武家の家来が一種の役得やくとくにもなっていたので、よほど厳格な主人でない限りはまず大眼おおめに見逃がしておく習いになっていた。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家計は、伊勢の禄地ろくちから上がる稲が唯一の収入で、おりおりのたまわり物だの、役得やくとくのみいりなどは、一切、なかった。
「合點、これも役得やくとくさ。同じ跟けるなら、綺麗な新造の方がどんなに心持がいゝか判らない」
「お医者さんですからな、役得やくとくというものがありましょうさ。若い美人がて貰いに来たら、そこで、ほら、あとは源内流に、いわずもがなのことになるんで……」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな使いをたのまれて幾らかの使い賃を貰うのが、番太郎の女房の役得やくとくであった。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「しかし、諸国の情勢を、危険をおかして、敵地と自国を、出没して歩くなど、われわれにはない役得やくとくだ。馬の飼料かいばを徴発したり、馬のあいだに寝たり、小荷駄隊も、華やかでないなあ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから彼ら小役人は、旅籠へつくなり自身で火をおこし、あわき、出張費かせぎの小金を浮かせるのを役得やくとくとしていたから、囚人の食物などは、ただ露命を保たせておけばいいとしているに過ぎない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)