平庭ひらにわ)” の例文
「思い出した、お広芝ひろしばじゃ。本丸の的場まとばのある平庭ひらにわじゃ。向うを見い、弓小屋があり、茶亭があり、そして的場の土手が見える……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
造りたての平庭ひらにわを見渡しながら、晴々せいせいした顔つきで、叔母と二言三言、自分の考案になったや石の配置について批評しあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庭木や、泉水の金魚などに綺麗に霜除しもよけのされた、広い平庭ひらにわの芝生に、暖かい日が当って、隠居の居間は、何不足もなく暮している人の住居のように、安静であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小次郎へ向って、すべてが、どっと駈け雪崩なだれた。小次郎は、が飛ぶように、身の位置をかえていた。おおきななつめの樹が平庭ひらにわの一方にあった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛び石が二つ、松一本のほかには何もない、平庭ひらにわの向うは、すぐ懸崖けんがいと見えて、眼の下に朧夜おぼろよの海がたちまちに開ける。急に気が大きくなったような心持である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
裏山をいだいている約四百坪ほどの山芝の平庭ひらにわを見ると、師の小野治郎右衛門忠明は、日頃、持ち馴れている行平ゆきひらの刀を抜いて、青眼せいがん——というよりはやや高目にひたと構え
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云うと大層だが、実は飛鳥山あすかやまの大きいのに、桜を抜いて松を植替えたようなものだから、心持の好い平庭ひらにわを歩るくと同じである。松も三四十年の若い木ばかり芝の上に並んでいる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老臣は縁先から城の平庭ひらにわを見まわし、ずっと奥の山芝やましばの黄いろく見えるあたりを指さした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)