師匠しょ)” の例文
或る日フリッツはとうとう稽古場へ上って来て、幸子たちがおさく師匠のことを「おッ師匠しょはん、おッ師匠はん」と呼ぶのを真似て
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「初めての晩、小花姐さんが芸事のお師匠しょさんだって云ったでしょ、あのときあたし絵をお描きになるんじゃないかって思いました」
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あのおッ師匠しょさん、もっと大きな声でおっしゃってくださいましよ、私しゃ至って横丁の源兵衛さんのほうで……」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「いいえ、もっとあとで、見た人が、お伝になった、お師匠しょさんの扮装おつくりを見て、お師匠しょさんの若い時分——年増としまぶりを見た気がしたって、言ってました。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「お師匠しょさん。おまえさんもお聞きでしょう。あたしの家には死霊の祟りがあるとかいう噂を……」
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
横町に古くいた常磐津ときわづのお師匠しょさんで、貰ったむすめの悪かったばかりに、住み馴れたうちを人手にわたし、いまでは見るかげもないさまになって、どこかの路地に引っ込みました。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
先生、この子がおッ師匠しょさんのところへ通う時ア、困りましたよ。自分の身に附くお稽古なんだに、人の仕事でもして来たようにお駄賃をくれいですもの。今もってその癖は直りません、わ。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
でなければこんな自分たちだけをのこして、さっさと国芳お師匠しょさんが引き取ってっておしまいなさるわけがない。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「此処のとうちゃんのお友達で、独逸ドイツのお方のお子達でんねん。わてとえらい仲好しで、いつも『おッ師匠しょはんおッ師匠はん』云うてくれはりまんねんで」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おくめ じゃあ、お師匠しょさん。兄さんがあんなに受合ってくれたんですから、きょうはこれで帰ろうじゃありませんか。ね、そうおしなさいよ。さあ、いきましょうよ。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「でも——それでも、お師匠しょさんは、もっと新らしい、書生芝居にもお出なすったのでしょう。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あたし松吉姐さんにみっちり仕込んでもらって、仲町第一の芸妓になるの、もう三味線や踊りのお稽古をしているんだけれど、どのお師匠しょさんも筋がいいってめてくれるわ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それにいくさはお師匠しょさん四谷へおいでの時分から上野辺じゃ、もうそろ始まっていたんですってねえ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
でも、お師匠しょさん、すこし根下りの大丸髷おおまるまげに、水色鹿の手柄で、鼈甲べっこうくしが眼に残っていますって——黒っぽい透綾すきやの着物に、腹合せの帯、襟裏えりうら水浅黄みずあさぎでしたってね。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小花という妓が「なにか芸事のお師匠しょさんよ」と云ったのがみんなの同意を得て、ついに長唄浄瑠璃じょうるりの師匠ということにきまると、すぐさま長唄の一と節をうたいだすようなこともした。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
伝兵衛 (小声で。)おまえさんは下谷のお師匠しょさんじゃありませんか。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ねえ、おッ師匠しょさん。そう花火にばかり見恍みとれていないで、さあひとつ干しておくんなさいよ」
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「お師匠しょさん、ゆうべは変なことがあったんですよ」
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
名古屋にゃ上方あっちで友達になった海老団治って奴にたいそうな人情噺の名人があるってしょっちゅう聞かされていたもんで、それからそのおっ師匠しょさんとこへ草鞋をぬいで
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
亀吉 やあ、明神下のお師匠しょさん。早いね。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
師匠しょさんの圓生師匠とは事変ってまるっきり口数の少ないむしろ素気なくさえおもわれる応対に、いっそ小圓太はさびしいようなものをさえ感じないわけにはゆかなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「あの、お師匠しょさんはおうちでしょうか」
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ア、そうそう圓太郎さん、お前さん春のお小遣いないンでしょ。ないンだったらおッ師匠しょさんにおもらいなさいよ。言いにくいンだったら言ってあげてもいいし、もし少しくらいだったらあたしだってなんとかなるわよ」
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)