ぎぬ)” の例文
それはまさしく閨房けいぼうであった。ぎぬで幾部屋かに仕切ってあった。どの部屋にも裸体像があった。いずれも男女の像であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこか神輿みこしめいたところがあって、何となく尊げに見受けられたが、一所に垂れている垂れぎぬの模様が、日本の織り物としてはかなり珍らしい。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
隣室へ通う三つの戸口へこればかりは華美はなやかな物として垂れ掛けた金襴きんらんの垂れぎぬ等を、幻想の国のお伽噺とぎばなしのように、模糊髣髴もこほうふつと浮き出させている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
窺い寄った葉之助、立ててある几帳のぎぬの隙から、内の様子を覗いて見たが、思わずゾッと総毛立った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と顔の垂れぎぬをかかげ、宮家の御首級みしるしを凝然と、見詰めていた早瀬が嗚咽しながら云った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこからほとばしり出た温湯ぬるまゆで、次々に手を洗った三人は、無造作に犠牲者へ白布を掛けると、何んの変事もなかったように、黒いぎぬを押し分けて、揃って後房へはいって行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と早瀬は顔の垂れぎぬを片手でかかげて、頼春の顔を、涙いっぱいの眼で見詰めたが
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
床が滑石なめいしで張り詰められてあり、その天井が非常に高いのが何より目立つ特色で、後房に通ずる戸口には黒色のぎぬがかけられてあり、中庭に通ずる戸口には厳重な扉が設けられてあった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)