山峡やまあい)” の例文
旧字:山峽
梅花うめはもう眼をる所に咲いていた。けれど山峡やまあいの冷気が肌身にみて、梅花に楽しむよりも、心は人里にばかりかれていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼も暗い山峡やまあいでは、今が何時頃だか判らぬ。あなたの峰を吹き過ぐる山風が、さながら遠雷のように響いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時、すでにうしろのほうからは、百足むかでのようにつらなった松明たいまつが、山峡やまあいやみから月をいぶして、こなたにむかってくるのが見えだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人がもとの入口に出た頃には、山峡やまあいの日は早く暮れて、暗い山霧が海のように拡がって来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれど、山峡やまあいのあいだに、皎々こうこうとして半月の冴える頃、こだまする人々の声を聞いては、さすがの彼も戦う力を失った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その女達は、伊万里赤絵町いまりあかえまちから、かわるがわる四、五人ずつ呼んでおく港の遊女で、朱塗しゅぬりかご山峡やまあいを通る日は、いた女が返されて、次ぎのみめよい女がえらばれてくる日だ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに、関門の大廈たいかが、近々と彼方の山峡やまあいに見えた頃である。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)