履脱くつぬぎ)” の例文
廊下の突当り、中戸を突きあげると、履脱くつぬぎに、庭下駄と、草履ぞうりとが並んでいた。人々が、庭下駄を履いたので、池上がその上へ足を下ろすと
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
母が履脱くつぬぎへ降りて格子戸の掛金かきがねを外し、ガラリと雨戸を繰ると、さっと夜風が吹込んで、雪洞ぼんぼりの火がチラチラとなびく。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
拔出ぬけいだし麹町三丁目へ到り其所そこか此所かと尋ぬるうちに門札かどふだに村井と表名へうめいの有りければ心嬉こゝろうれしく爰が長庵のたくにて小夜衣はさぞ待詫まちわびつらんと玄關形げんくわんかたちの履脱くつぬぎへ立入て案内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小堀杏奴夫人がわたくしを尋ねられたのは、それより後の事であつたが、座敷に灯がつき、庭が暗くなると、思ひかけず、履脱くつぬぎの上にあつたベコニアの葉が光り出した。
本の装釘 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
阿爺おとっさんに叱られるけれど、と言いながら、詰り桟俵法師さんだらぼうしを捜して来て、履脱くつぬぎの隅に敷いて遣った——は好かったが、其晩一晩啼通なきとおされて、私はちっとも知らなんだが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
早速履脱くつぬぎへ引入れて之を当がうと、小狗こいぬ一寸ちょっとを嗅いで、直ぐうまそうに先ずピチャピチャと舐出なめだしたが、汁が鼻孔はなへ入ると見えて、時々クシンクシンと小さなくしゃみをする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)