しば)” の例文
私達は居酒屋の娘にしばしの別れを告げに行つた学生の三原を待つた。間もなく三原と娘が田圃道を此方へ向つて歩いて来るのが解つた。三原は娘の肩に腕を載せてゐる。
川を遡りて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
併し、かかる意識(又はその意味にしば々用いられる処の理性)は単なる意識ではなくて歴史的意識(歴史的理性)でなければならない。何故なら現実的存在が歴史的なのであったから。
辞典 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
この二年のあいだに、左内はしばしば喜多を訪れ、兄の勘一郎とよく議論をした。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或る日、彼女は、昔は其処そこに水車場があったと私の教えた場所のほとりで、しばしば、背中から花籠はなかごを下ろして、松葉杖まつばづえもたれたままあせいている、ちんばの花売りを見かけることを私に話した。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
よしや此恋諏訪すわうみの氷より堅くとも春風のぼや/\と説きやわらげ、凝りたるおもいを水に流さし、後々の故障なき様にせではと田原は笑顔えがおあやしく作り上唇うわくちびるしばなめながら、それは一々至極の御道理
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのうちに私たちがやっと短い会話を取りわすようになり、それと共に、しばしば、私は彼女の顔をまともから眺めるようになったのにもかかわらず、彼女の顔がなおも絶えず変化しているのにおどろいた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)