尺八しゃくはち)” の例文
遠くの方から、村の青年が吹き鳴しているのでしょう、下手な追分節おいわけぶし尺八しゃくはちが、それでも何とやら物悲しく、風の音にまじって聞えて来ます。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
このAさんは夜になってひまになると、好く尺八しゃくはちを吹く若い男であった。独身ひとりもので病院に寝泊りをして、へやは三沢と同じ三階の折れ曲った隅にあった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生はずっと前に尺八しゃくはちの音響学的研究をされて外国人を驚かされたことがあったが、引続いて三味線の方を調べたいという希望をずっと持っておられたのである。
或時は思出をつづるなんぞととなへて文を売り酒ふ道に馴れしより、われ既にわが身の上の事としいへば、古き日記のきれはしと共に、尺八しゃくはち吹きける十六、七のむかしより
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そうかと思うと、鮨売すしうりの声やもろこし団子だんご味噌田楽みそでんがくい物屋、悠長ゆうちょう尺八しゃくはちをながしてあるく虚無僧こむそうがあるかと思えば、ひなびた楽器がっきをかき鳴らしてゆく旅芸人たびげいにんかさのむれ——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……すこし嫌気がさして、ころがっていた船宿を出て、小田原町の通りをあてもなくブラブラ歩いていると、すぐそばの露地の奥で、尺八しゃくはちの師匠が、れ、れ、つ、ろー、ろ、とやっている。
たびに でた 一休いっきゅうさんは いつも 木刀ぼくとうを こしに さし、尺八しゃくはちを ふいて いたと いうことです。もんじんは 木刀ぼくとうを こしに さした こじきぼうずを、ふしぎに おもったのです。
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
今さっきね、盲目の人が尺八しゃくはち
佐々介三郎さっさすけさぶろうは、尺八しゃくはちをよくふいた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)