少時しばら)” の例文
磯は少時しばら此店ここの前を迂路々々うろうろしていたが急に店の軒下に積である炭俵の一個ひとつをひょいと肩に乗て直ぐ横の田甫道たんぼみちそれて了った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
くみ子はハンドバツクから薄むらさきのハンカチを出して、それを少時しばらく擴げたりたたんだりしてゐた。
多摩川 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
何かの意味で保険の付いていない人にのみ酷薄であった債権者は直ちに彼の門にせまった。官邸を引き払った時に召仕めしつかいの数を減らした彼は、少時しばらくして自用俥じようぐるまを廃した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして二人は黒いマントのやうなものを頭からかぶり、一言も口を利かず少時しばらく立ち止つてぢつと此方を見てゐる様子であつたが、又二人の婦人の跡をつけて左手へ曲つて行つた。
かく言いて少時しばらく黙し、眼を転じ天を仰いで言いけるは
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
代助は椅子の一つをゆびさした。三千代は命ぜられた通りに腰を掛けた。代助は其向そのむかふに席をめた。二人ふたりは始めて相対した。然しやゝ少時しばらくは二人ふたりとも、くちひらかなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
返事がないので、磯は丸く凸起もちあがった布団を少時しばらじっていたが
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それが少時しばらくすると、たんなる憎惡ぞうをねん變化へんくわした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)