対方むこう)” の例文
その大将め、はるか対方むこう栗毛くりげの逸物にッてひかえてあったが、おれの働きを心にくく思いつろう、『あの武士さむらい、打ち取れ』と金切声立てておッた
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
帽を傾け、顔を上げたが、藪に並んで立ったのでは、此方こなたの袖に隠れるので、みち対方むこうへ。別荘の袖垣から、ななめに坂の方を透かして見ると、つれの浴衣は、その、ほの暗い小店にえんなり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そらの大きさ、風の強さ、草の高さ、いずれも恐ろしいほどにいかめしくて、人家はどこかすこしも見えず、時々ははるか対方むこうの方をせて行く馬の影がちらつくばかり
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
それも秋で、土手を通ったのは黄昏時たそがれどき、果てしのない一面の蘆原あしはらは、ただ見る水のない雲で、対方むこうは雲のない海である。みちには処々ところどころ、葉の落ちた雑樹ぞうきが、とぼしい粗朶そだのごとくまばららかって見えた。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)