寐衣ねまき)” の例文
部屋へ戻ッても、尚お気が確かにならず、何心なく寐衣ねまきに着代えて、力無さそうにベッたり、床の上へ坐ッたまま、身動もしない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おもて二階を借りている伊東さんというカフェーの女給じょきゅう襟垢えりあか白粉おしろいとでべたべたになった素袷すあわせ寐衣ねまきに羽織をひっかけ、廊下から内をのぞいて
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがて彼は寐衣ねまきを着換えて、自分の床に入った。そうして濁りながら動いているような彼の頭を、静かな夜の支配に任せた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見れば今仕立しと見ゆる八丈絹はちぢやうぎぬの小袖なり返せしは左る心にてはなし是が寐心よければ別に寐衣ねまきに及ばずと云しなりと詫てまた戻せしが是にても客を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
覚し居て「お紺、今夜は何と無く気味の悪い事が在る己はう帰る」と云いながら早や寐衣ねまき
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
三味線や寐衣ねまきにくるむ五月雨さつきあめ 其角
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さて子舎へ這入ッてからお勢は手疾てばや寐衣ねまきに着替えて床へ這入り、暫らくの間ながら今日の新聞をていたが……フト新聞を取落した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
どこからともなくいわしを焼くにおいがして物干の上にはさっきから同じ二階のおもて座敷を借りている女が寐衣ねまきすそをかかげてしきりに物を干している影が磨硝子すりガラスの面に動いている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
收めたり夜具よるのものも清くして取扱ひ丁寧なり寐衣ねまきとてあはせいだしたれど我はフラネルの單衣ひとへあればこれにて寐んと一枚を戻せしにいかにあしくは聞取りけん此袷きたなしと退けしと思ひ忽ち持ち行きて換へ來りしを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)