孤寂こじゃく)” の例文
綽空は、草庵をとざして、夜の孤寂こじゃくに入ってからも、瞑想めいそう澄心ちょうしんを、それのみに結ばれてしまうことを、どうしようもなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、ひとりぼッち、あとに取りのこされた巡礼じゅんれいのおときは、孤寂こじゃくなかげをションボリたたずませて、る者のうしろ姿すがたをのびあがりながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孤寂こじゃくにうるんだいとも淋しげな眸であった。いつか、四山の峰のひだは、ふかい暗紫色をりこんで、水の見えない琵琶湖の方に、厚ぼったい雲が下がっていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ宰相たるのゆえをもって、無為無策のまま臨んでも、かえって諸員に迷妄を加えるのみですから、暫しじっと、孤寂こじゃくを守って、深思していたわけであります。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山に一庵いちあんをむすび、みずからたきぎを割り水をんで、孤寂こじゃくな山中人になりきっているとは——樵夫きこり猟夫りょうしなどの口から風のたよりには聞えて来るが、さとの者も、旧臣たちも、まだ誰もゆるされて
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
般若はんにゃ悄然しょうぜんとうなだれました。世に生きとし生ける者のなかに、孤寂こじゃく! 真実の独りぼッちである、お蝶というあわれな混血児あいのこの姿を、吾と姿とのけじめを忘れて、暫く見つめているふうです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして眼は何を見るともない孤寂こじゃくそのものだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)