媒妁ばいしゃく)” の例文
ところでそばにいた校長がそれと察して、『お気に召しましたかな? 何なら媒妁ばいしゃくの労を取りましょうか?』と冗談を言ったそうだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうしてそのお蔭という訳でもないが、事実はやはりそのおかげに違いなかったであろう、私は間もなく社長の媒妁ばいしゃくで妻を迎えたのであった。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もし出来ることなら、自分が改めて媒妁ばいしゃくの労を執って、二人を添わせるように尽力しよう、こんなことまで考えて来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分は笑うと云わんよりはむしろ矛盾のさびしみを感じた。幽霊の媒妁ばいしゃくで、結婚の儀式を行ったら、こんな心持ではあるまいかと、立ちながら考えた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥さんの話によると、多代子は学校を出ると間もなく、桐沢氏の媒妁ばいしゃくで、現在の夫の深見氏方へ縁付いたのである。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浪子が再度喀血の報を聞くに及びて、母は決然としてかつて媒妁ばいしゃくをなしし加藤家をいたるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
令嬢の名前は常子つねこである。これも生憎あいにく恋愛結婚ではない。ある親戚の老人夫婦に仲人なこうどを頼んだ媒妁ばいしゃく結婚である。常子は美人と言うほどではない。もっともまた醜婦しゅうふと言うほどでもない。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはまゆずみで画いた眉の細長く曲っていて美しい、そして小さな足に鳳凰頭ほうおうとうの靴を穿いていたが、その美しいことは嬌娜に劣らなかった。孔生は大いに悦んで公子に媒妁ばいしゃくをしてくれと頼んだ。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
媒妁ばいしゃくをして下すった夫人は社交家で、「森さんは奥さんのお扱いが下手へただ」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
婚礼は長倉夫婦の媒妁ばいしゃくで、まだ桃の花の散らぬうちに済んだ。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
瀬戸君は長倉さんしか頭になかったが、成程、媒妁ばいしゃくには奥さんが重大な役割を勤めると気がついて、又改まって頼み入れた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
津田夫婦の結婚するとき、表向おもてむき媒妁ばいしゃくの労を取ってくれた吉川夫婦と、彼の妹にあたるお秀と、その夫の堀とが社交的に関係をもっているのは、誰の眼にも明らかであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せめては是世このよに君とお雪と及ばず乍ら自身媒妁ばいしゃくの労を執って、改めて君にめあわせんものと決心致し、昨夜、一昨夜、殆ど眠らずしてその方法を考え申候……ここに一つの困難というは
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかもその媒妁ばいしゃくに立ったのは、お峰の伯父にあたる四谷大木戸前の万屋よろずやという酒屋の亭主で、世間にあり触れた不誠意の媒妁口ではないと思われるので、近江屋の夫婦も心が動いた。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中川というのはこの夫婦の間に媒妁ばいしゃくの労を執った同僚である。井口君は尻尾を巻いて出勤した。
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)