妖麗ようれい)” の例文
何か魔物めいた妖麗ようれいさが附きまとっているように思えて、彼は我が眼を疑いながら、左右さうなく近寄ろうともせず、遠くから眺め渡していた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妖麗ようれい夜霞よがすみをふいて、三方みかたはら野末のずえから卵黄色らんこうしょく夕月ゆうづきがのっとあがった。都田川みやこだがわのながれは刻々こっこくに水の色をぎかえてくる、——あい、黒、金、銀波ぎんぱ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十九世紀末のフランス的な、最も妖麗ようれいな、最も頽廃たいはい的な美を持った歌劇を書いた作曲家である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
けれども読者の心目しんもく眩惑げんわくするに足る妖麗ようれいな彼の叙述が、にぶい色をした卑しむべき原料から人工的に生れたのだと思うと、それを自分の精神状態に比較するのが急にいやになった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玉藻は妖麗ようれいであった。衣笠は端麗たんれいであった。千枝太郎はこの相違を比較して考えた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)