墨屋敷すみやしき)” の例文
「怪し火? フーム……して駿河台の、甲賀組の墨屋敷すみやしきなどは、かけ離れてもいるから、さしたることはあるまいな」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じっとひたいを膝がしらに伏せた弦之丞には、いつか、抱きしめている尺八が、お千絵様そのもののように思いなされて、恋人のむ駿河台の墨屋敷すみやしき
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸墨屋敷すみやしきにいた当時から、そなたに生涯の恋をけている男というのは、近い日のうちに、すばらしい出世のかぎを握って上府じょうふすることになっている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——やッ。火事は駿河台の甲賀組らしいぞ。あの墨屋敷すみやしきの下の森から、真っ黒な煙が吹き出しているンだ!」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病気は、江戸にいた頃から、少しずつよくなっていたので、墨屋敷すみやしき以来のことは、かすかに想像がついた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
墨屋敷すみやしきを焼いたのはお綱の為業しわざでござるぞ。また、お千絵をああして奪ったのは万吉でござるぞ、よいか! そしてそれを傀儡かいらいしたやつは法月弦之丞ではないか。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだよ、墨屋敷すみやしきといってね、二十七家の隠密役おんみつやくかたばかりが、このひとところにお住まいになっている」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もともと、かれは江戸で、お千絵様という女性を墨屋敷すみやしきの穴蔵部屋へ押し込めていた当時からして、金箔付きんぱくつきの隠密組のひとりという身柄みがらは、こっちも知っていたのに!
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、駿河台するがだい墨屋敷すみやしきで、固く、お綱と万吉の間に交わされた、あのことを指したのに違いない。あのこととは、無論お綱の心の奥に、言いだせずに秘められている、恋である。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「江戸で甲賀を名乗る家といえば駿河台するがだい墨屋敷すみやしき隠密組おんみつぐみ宗家そうけといわれる甲賀世阿弥こうがよあみだ……ウウム、その世阿弥が十年前に阿波へ入ったきり行方不明? こいつアいよいよ他人事ひとごとじゃあない」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弦之丞とお千絵様との仲は、きょうまで、万吉もかれも、決してお綱に話してなかったことだが、怜悧れいりなお綱は、墨屋敷すみやしき以来の事情を綜合して、明らかに、心のうちで、それと察していたのである。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)