とざ)” の例文
彼は町から以来と云うものは、全く不安にとざされたままで、ただじっと朝刊に、不安な目を向けているだけであった。
新しい墓の前には、燃え尽きた線香の灰が残つてゐるだけであつた。供へた花が、凋れてゐるだけであつた。美奈子の心を、寂しい失望が一面にとざしてしまつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
連脈のうへに一ときは高い山が上部は密雲のなかにとざしたまま、鼠色な腹を示しはじめた。この地方名うての靈山岩木山だなと、わたしは心のなかで合點うなづいた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
それはそうでしょうが、家庭に妻のないのは、家屋にうつばりがないようなものです。皇叔のご前途はなお洋々たるものですのに、何故、一家の事を中道にとざして、人倫を廃さるるのです。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある者は自己を固くとざして、もはや他人に何ものをも求めようとしない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
心覚えの墓地は、むなしかった。新しい墓の前には、燃え尽きた線香の灰が残っている丈であった。供えた花が、しおれている丈であった。美奈子の心を、寂しい失望が一面にとざしてしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
骨と皮ばかりになって、しかも、ふもとへの道さえとざされた雪の日に
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)