均衡きんこう)” の例文
なにしろ、そうした意味からも、熊野水軍と田辺の湛増たんぞうの向背は、源平両勢力の均衡きんこうのカギを握っていたものといってよい。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
均衡きんこうを失った身体は止めどもなく辷り落ちる。アア、もう駄目だ。群集の多くは、思わず目をとじた、顔をそむけた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……そう云う不摂生ふせっせいをやるから、君は正常な心の均衡きんこうを失ってしまうのだ。……石ノ上。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
村一番の競争は今や頂点クライマックスに達している。全く互角だ。緒方家は実力を増し、東金家は格式を得て、均衡きんこうたもっている。息子の出世で何方かへかしぐのである。僕は重い責任を感じた。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一つ一つの能力の優秀ゆうしゅうさが全然目立たないほど、過不及かふきゅう無く均衡きんこうのとれた豊かさは、子路にとってまさしく初めて見る所のものであった。闊達かったつ自在、いささかの道学者しゅうも無いのに子路はおどろく。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
自分の均衡きんこうをたしかめるように立止り
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
なる者の小さいはずな存在が、ここでは時の人新田義貞の名にも均衡きんこうするほどな戦後人気を、俄に武士間にかもし出している。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまもいったような、男女の数の均衡きんこうが、まったく偏しているのだから、その矛盾の上ではな。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そこからもう先を争ってゆく者、侍側十数名の若者が、猛然、崖をくずして雪崩なだれたかと思うと、早くも、谷あいの両勢の対峙たいじは、均衡きんこうを破って叫喚きょうかんの乱軍となり始めていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず、局部的な、点と点との小ゼリ合いから、両軍の均衡きんこうが、るぎ始めた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)