土庇どびさし)” の例文
随竜垣に手を掛けて土庇どびさしの上へ飛上って、文治郎鍔元つばもとへ垂れるのりふるいながら下をこう見ると、腕が良いのに切物きれものが良いから、すぱり
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
八年まえに妻が亡くなってから、殆んど使ったことはないが、深い土庇どびさし造りの縁側の向うは、横庭から湖水の一部を眺めることができた。
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「蒸し蒸しするわねえ。」と君江はいざりながら手をのばして障子を明けると、土庇どびさしの外の小庭に燈籠とうろうが見えた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
土庇どびさしを打つ雨だれが、折りからの月を受けて銀に光っているのが、屋内おくないにあっても感じられる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若葉の繁みで土庇どびさしの外が小暗いばかりになっている座敷の、わざとすずしい端近はしぢかな方へ席を取ってほっと一と息入れている夫婦のけはいから、それとなく何かを見て取ろうとした老人は
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二伸 かの六畳土庇どびさしのざしき太鼓張襖紙たいこばりふすまがみ思案につき候まゝ先年さる江戸座の宗匠そうしょうより売付うりつけられ候文化時代吉原よしわら遊女の文殻反古張ふみがらほごばりに致候処妾宅しょうたくには案外の思付に見え申候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
植木屋、へたばって、そこの土庇どびさしに手をついてしまうかと思いのほか
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
要は消えかかった蚊やりの煙の真っすぐに立ちのぼる土庇どびさしの外を仰いだ。止んだのは庭の面の風ばかりではない、お久もあおぐのを忘れたように、手にある団扇をじっと動かさずにいるのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)