土偶でく)” の例文
素焼すやき土偶でくは粉になって、四方へ破片を飛ばしたのです。すると、その樹のうしろあたりから、あっと言って姿を見せた男女がある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これからさき生かして置いてくれるなら、己は決しての人間を物の言えぬ着物のように、または土偶でくか何かのように扱いはせぬ。
自分は「先生」を曲解して、人形や土偶でくにはし度くない。「先生」を偉大なりと思ふ丈「先生」を人間扱ひし度いのである。
僕のうちには祖父の代からお狸様たぬきさまというものをまつっていた。それは赤い布団にのった一対の狸の土偶でくだった。僕はこのお狸様にも何か恐怖を感じていた。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何か埴輪の土偶でくのようなものでもあったら欲しいと思ったのだが、そんなものでなくとも、なんでもよかった。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
土偶でくのように感興の固定した先生の群の中で、彼の先生だけが生きた先生に思った。愛すべき青年の先生は私の前で英雄と神との境へまで挙げられたのである。
追慕 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
肱から先を食いとられて土偶でくのようになった血だらけの腕を振りながら、なんともいいようのない声で
三界万霊塔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
手づくねのごく単純な土偶でくを素焼きにし、それへ荒く泥絵具どろえのぐを塗っただけのものである。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
親しい顔がずらりと並んでいても、ふと眼の向いたものと機械的な会釈が交わされるだけで、みな全くの他人で土偶でくに等しく、球だけが生々と活躍して、あらゆるものの中心となる。
阿亀 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
多くは土色をした土偶でくのようなものであった。これらの人々は読み方や、算術や、習字を教える機械に雇われているバネ仕掛けのあやつり人形であって、有肺人類には属しないものであった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
のみならず親の手前世間の手前面目ない。人から土偶でくのようにうとまれるのも、このおれを出す機会がなくて、鈍根どんこんにさえ立派に出来る翻訳の下働きなどで日を暮らしているからである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また、その人体は、人間の化した死蝋しろうでも木乃伊みいらでもありません。生まれながら霊魂も肉体も持たない素焼すやき土偶でくで、きわめて原始的な工法で焼かれた赤土の埴輪はにわであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生半可なまはんか、ひとの心や気もちのうごきに敏感になったから、かえって、こっちの手がおくれるのだ。日観なども、眼をとじて一撃をり落せば、実はもろ土偶でくみたいなものかも知れないのだ
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オオ。たたきこわしてやれ、その土偶でくを」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)