唐本たうほん)” の例文
満庭の樹影青苔せいたいの上によこたはりて清夏の逸興にはかきたるを覚ゆる時、われ年々来青花のほとりに先考所蔵の唐本たうほんを曝して誦読日の傾くを忘る。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「成程、御尤ごもつともで……」と市島氏は型のやうに一寸頭を下げた。そしてその次ぎの瞬間には文求堂の店で見た古い唐本たうほんの値段の事を考へてゐた。
が、更に驚いたのはこの頃ふと架上かじやうの書を縁側の日の光にさらした時である。僕は従来衣魚しみと言ふ虫は決して和本や唐本たうほん以外に食はぬものと信じてゐた。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
玄關からは上らずに柴折戸しをりどを潜つて庭へ這入ると、鼈甲の大きな老眼鏡をかけた父は白髯しらひげを撫でながら、縁側の日當りに腰をかけて唐本たうほんを讀んで居られたが、自分の姿を見ると、何より先に
新帰朝者日記 拾遺 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
さうしてその机のうしろ、二枚重ねた座蒲団の上には、何処どこ獅子ししを想はせる、脊の低い半白はんぱくの老人が、或は手紙の筆を走らせたり、或は唐本たうほんの詩集をひるがえしたりしながら、端然たんぜんと独り坐つてゐる。……
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さうしてその机のうしろ、二枚重ねた座蒲団の上には、何処どこ獅子ししを想はせる、せいの低い半白はんぱくの老人が、或は手紙の筆を走らせたり、或は唐本たうほんの詩集をひるがへしたりしながら、端然たんぜんと独り坐つてゐる。……
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)