能因法師は、茶店のハチといふ飼犬に吠えられて、周章狼狽しうしやうらうばいであつた。その有様は、いやになるほど、みつともなかつた。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
世間の人の周章狼狽しうしやうらうばいするやうな事に出くはすと、先生きはめて平気で、不断から透明な頭がいよいよ透明になつて来る。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
せい凱歌かちどきこゑいさましく引揚ひきあげしにそれとかはりて松澤まつざは周章狼狽しうしやうらうばいまこと寐耳ねみゝ出水でみづ騷動さうどうおどろくといふひまもなくたくみにたくみし計略けいりやくあらそふかひなく敗訴はいそとなり家藏いへくらのみか數代すだいつゞきし暖簾のれんまでもみなかれがしたればよりおちたる山猿同樣やまざるどうやうたのむ木蔭こかげ雨森新七あめもりしんしちといふ番頭ばんとう白鼠しろねづみ去年きよねん生國しやうこくかへりしのち
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)