吾子わがこ)” の例文
「ネブ茶を香ばしく入れましたから、持って来ました」とお種は款待顔もてなしがおに言て、吾子わがこと弟の顔を見比べて、「正太や、叔父さんにもいでげとくれ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
T子が吾子わがこ可愛さの余りに、色々と考えまわした揚句あげくに、とうとうそこまで気をまわしていた何よりの証拠だ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
母は其子を兼盛のたねでは無いと云張り、兼盛は吾子わがこだと争ったが、畢竟ひっきょうこれは母が其子を手離したくない母性愛の本然ほんねんから然様そう云ったのだと解せられもするが
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たった二日か三日しか畑も田圃も見ないのだが、何だか三年も吾子わがこに逢わないような気がした。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
生き別れをした吾子わがこを尋ね当てるため、六十余州を回国かいこくして、てもめても、忘れるがなかったある日、十字街頭にふと邂逅かいこうして、稲妻いなずまさえぎるひまもなきうちに、あっ、ここにいた
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これからはもう決して政の所へなど行くことはならぬ。吾子わがこを許すではないが政は未だ児供だ。民やは十七ではないか。つまらぬ噂をされるとお前の体にきずがつく。政夫だって気をつけろ……。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
奥の部屋では客と主人のまざり合った笑声が起った。お種は台所の方へ行ったり、吾子わがこの側へ行ったりして、一つ処に沈着おちついていられないほど元気づいた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
有馬、金森、いずれも中々立派に一器量ある人々であり、他の人々も利家が其席をたっとくして吾子わがこの利長利政をも同坐させなかった程だから、皆相応の人々だったに疑無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どういう人に成って行くかサ」とお種は更に吾子わがこのことを言出して、長い羅宇らう煙管きせる煙草たばこを吸付けた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)