吃々きつきつ)” の例文
K氏は、頭を丸刈にしたこっくりした壮年期に入ったばかりの人、吃々きつきつとして多く語らず、東洋的なロマンチストらしい眼を伏せ勝ちにして居る。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
咄々とつとつ吃々きつきつとして、紅顔十五から十七歳までの少年十数名が、祖城の亡ぶ炎をかなたに刺しちがえて死んだ——あの維新惨劇の一場面を語ってゆく。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遮莫さわれ、その小亀一座にはがんもどきと仇名打たれし老爺あり、顔一面の大あばた、上州訛りの吃々きつきつと不器用すぎておかしかりしが、ひととせ、このがんもどき
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その後始末として、お角さんの駕籠の中に呼びつけられた米友の油汗を流しながらの吃々きつきつとした弁明が、かえって当の相手の甚目寺じもくじの音公を失笑させるという次第でした。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
直也は、吃々きつきつとどもりながら、威丈高いたけだかののしった。が、荘田はビクともしなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
後にきく種々さまざまな修身談は、はじめから偉そうに、吃々きつきつと、味のない、型にはまりきったことをいうのばかりだ。それは、語るものが、自ら教えるという賢人づら、または博識ものしり顔をするからだ。
聞訖ききをはりたる貫一は吃々きつきつとして窃笑せつしようせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
羽抜鶏はぬけどり吃々きつきつとして高音たかねかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
老人は娘のいる窓や店の者に向って、始めのうちはしきりに世間の不況、自分の職業の彫金の需要されないことなどを鹿爪しかつめらしく述べ、従って勘定も払えなかった言訳を吃々きつきつと述べる。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
吃々きつきつとして、こういう釈明をする間にも、異人氏は小舟の修繕の手を休めない。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)