古蹟こせき)” の例文
こういう古蹟こせきなので、従来、室町幕府は代々ここのやしろには特別な崇敬と保護を寄せていた。光秀がその由来に無知なわけもない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この恨みは初め一抹いちまつの雲のごとくわが心をかすめて、瑞西スイスの山色をも見せず、伊太利イタリア古蹟こせきにも心をとどめさせず、中ごろは世をいとい、身をはかなみて
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ここはさきの日に、巡査等が𤢖わろ戦闘せんとうを開いた古蹟こせきである。低い穴を横にくぐって奥深く進んで行くと、天井はようやくに高くなった。ここを行き過ぎると、更に広い場所へ出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
関東方面は結構ですから奈良にお連れになって下さい、あたし等は近くにいながら案外大和の名所古蹟こせきには不案内で、妹などは法隆寺の壁画さえ見ていないのです、と云い
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それを一番よく知っているのは私だ、私はかつてこの背中を、毎日湯に入れて流してやったのだ。あの時もちょうど今のようにシャボンの泡を掻き立てながら。………これは私の恋の古蹟こせきだ。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そりゃ田舎にもよりけりだよ、僕の家なんか草深い百姓家で、近所の景色は平凡だし、名所古蹟こせきがある訳じゃなし、真っ昼間から蚊だのはえだのがぶんぶんうなって、とても暑くってやり切れやしない」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)