古布子ふるぬのこ)” の例文
湯をつかわせて、小ざっぱりした着がえをすすめた、が泰軒はすまして古布子ふるぬのこを手に通して、それよりさっそく酒を……というわがままぶり。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よもぎの様な頭髪、ボロボロの古布子ふるぬのこ、繩を結んだ帯。乞食かしらん、だが、乞食がなぜあんなに彼を見つめていたのだろう。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木綿縞の古布子ふるぬのこ垢づいて、髪は打かぶって居るが、うみ父母ふたおや縹緻きりょうも思われて、名に背かず磨かずも光るほどの美しさ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
山間僻地さんかんへきちのここらにしてもちと酷過ひどすぎる鍵裂かぎざきだらけの古布子ふるぬのこの、しかもおぼうさんご成人と云いたいように裾短すそみじか裄短ゆきみじかよごくさったのを素肌すはだに着て、何だか正体の知れぬ丸木まるき
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
隣のおでん屋の屋台が、軒下から三分が一ばかり此方こなた店前みせさきかすめた蔭に、古布子ふるぬのこ平胡坐ひらあぐらつぎはぎの膝かけを深うして、あわれ泰山崩るるといえども一髪動かざるべき身の構え。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古布子ふるぬのこならござりますだ」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桁丈ゆきたけも身にそひしこの古布子ふるぬのこ
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
したがってこうして都を離れるにも、何一つ身仕度などあろうはずもなく、きたきり雀の古布子ふるぬのこに、それだけは片時も別れぬ一升徳利の道づれ——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
着物は無論徳さんの息子の古布子ふるぬのこで、手先や足に泥を塗って、一寸見たのでは分らぬ様にしてはいたが、それでも、昼日中、野外を歩き廻るのだから、私の気苦労は一通りではなかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)