出汐でしお)” の例文
このごろの朝の潮干しおひは八時過ぎからで日暮れの出汐でしおには赤貝の船が帰ってくる。予らは毎朝毎夕浜へ出かける。朝の潮干にははまぐりをとり夕浜には貝を拾う。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あの芭蕉が伸拡がって、沼の上へ押覆おっかぶさるもんですから、御覧なさい。出汐でしおをこうして隠すんですもの。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いまは西かぜ、順風ともいえるが、月の出汐でしおの時刻には、風向きが吹きかわろうともいっています」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒼味あおみを帯びた薄明うすあかり幾個いくつともなく汚点しみのようにって、大きな星は薄くなる、小さいのは全く消えて了う。ほ、月の出汐でしおだ。これがうちであったら、さぞなア、好かろうになアと……
やや遅い月の出汐でしおになったのである。一読しずかな農家の庭に立つ想がある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
晃然きらりとあるのを押頂くよう、前髪を掛けて、扇をその、玉簪ぎょくさんのごとく額に当てたを、そのまま折目高にきりきりと、月の出汐でしおの波の影、しずか照々てらてらと開くとともに、顔を隠して、反らした指のみ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)