凝性こりしょう)” の例文
老僧か、小坊主か納所なっしょかあるいは門番が凝性こりしょう大方おおかた日に三度くらいくのだろう。松を左右に見て半町ほど行くとつき当りが本堂で、その右が庫裏くりである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
れいの凝性こりしょうで本式に腰蓑一つになって丈一の継竿つぎざおをうち振りうち振り、はや他念のない模様である。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
気前が面白ければ銭遣ぜにづかいが荒く、凝性こりしょうなれば悟過ぎ、優しければ遠慮が深し、この方ならばと思うような御人おひとは弱々しくて、さて難の無い御方というのは、見当らないのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうお勢を見棄みすてたくないばかりでなく、見棄てはむしろ義理にそむくと思えば、凝性こりしょうの文三ゆえ、もウ余事は思ッていられん、朝夕只この事ばかりに心を苦めて悶苦もだえくるしんでいるから
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
の年に生れて九星四緑きゅうせいしろくに当るものは浮気にて飽きやすきしょうなりといへり。凝性こりしょうの飽性ともいへり。僕はそもそもこの年この星の男なり。さるが故にや半年と長つづきした女はなし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
素人八卦は当ったのかわれながら不思議なぐらいだが、幽明の境を弁えぬ凝性こりしょうの一念迷執、真偽虚実をよそに、これはありそうなことだと藤吉は思った。帰り着いたのは短夜の引明ひきあけだった。