具象ぐしょう)” の例文
あたかも私のそういう長い不在を具象ぐしょうするような、この高原にけるさまざまな思いがけない変化、それにつけても今更いまさらのように蘇って来る
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
男は必ず負ける。具象ぐしょうかごの中にわれて、個体のあわついばんでは嬉しげに羽搏はばたきするものは女である。籠の中の小天地で女と鳴くを競うものは必ずたおれる。小野さんは詩人である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あとには塵も雲と立とうが、車上の者には何でもない。あたり構わず突進する現代精神を具象ぐしょうした車である。但人通りが少ないので、此街道は自動車には理想的な道路と云ってよい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして当然、かれも持つ本能のすがたのまま、なやみ、もがき、猛り泣いて、かかる人間宿命を、一けん具象ぐしょうし、その修羅道しゅらどうから救われるべき「道」をさがし求めた生命の記録が彼であったのだ。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泰西たいせいの画家に至っては、多く眼を具象ぐしょう世界にせて、神往しんおう気韻きいんに傾倒せぬ者が大多数を占めているから、この種の筆墨に物外ぶつがい神韻しんいんを伝え得るものははたして幾人あるか知らぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)