兇状持きょうじょうもち)” の例文
今はめていても兇状持きょうじょうもちで随分人相書の廻ってるのがあるから、迂濶うかつな事が出来ないからさ。御覧よ、今本願寺まいりが一人通ったろう。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この男は思わぬ兇状持きょうじょうもちで、盗みめた金を資本に、高利の金をかし、表店の沢屋がうらやましくなって諸方へ手を廻して沢屋の証文を買い集め
生命いのち知らずの兇状持きょうじょうもちばかりを拾い込んでいる機関部へ来て、これだけの文句を並べ得る水夫は兼の外には居ない。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寒い冬空を、防寒具の用意すらなかった兄の壮太郎は、古い蝙蝠傘こうもりがさを一本もって、宛然さながら兇状持きょうじょうもちか何ぞのような身すぼらしい風をして、そこから汽車に乗っていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もう抜くことのできない悪事の沼にすべりこんで、女掏摸すり兇状持きょうじょうもちを、一生、肩に背負って、十手の先を逃げ歩いていたかもしれない、と思うことはいくたびであった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お泊り宿は名ばかり、小ばくちの宿をやったり、兇状持きょうじょうもち、お尋ね者なぞの、隠れ家になったりしている、お目こぼれの悪の巣で、お三ばばという、新宿の、やり手上りの侘住居わびずまいだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いいかえ、わしは、お豊さん、兇状持きょうじょうもちなのだよ、今にも役人につかまれば首を斬られてしまうのだよ、お前の伯父さんを鉄砲で撃ったのもわしだよ、鍛冶倉を殺したのもわしだよ。
あの男は兇状持きょうじょうもちだったんだ。八丁堀と数寄屋橋の間をお百度を踏んでようやく判ったよ。
剃毛そりげたまった土間へころりとおっこちたでさ——兇状持きょうじょうもちにはしんかられて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうです言種いいぐさは、前かど博徒ばくちうち人殺ひとごろし兇状持きょうじょうもち挨拶あいさつというもんです。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)