やと)” の例文
半夜に至りて天に纖雲なく、皎月けうげつはヱネチアと岸區リドとの間なる風なき水を照せり。われはポツジヨと舟をやとひて岸區を離れたり。
それから馬車をやとつて、少しの時間を利用して吉林城を見物し、また城南にある北山の中腹にまで登つて松花江と城とを展望する事にした。
その或は体例にそむきたるが如き迹あるものは、事実に欠陥あるが故に想像を藉りて補填し、客観の及ばざる所あるが故に主観をやとつて充足したに過ぎない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やといたること甚だわずかなりし点においては彼の淡泊無邪気なる大納言殿だいなごんどのかえって来たり聴くに値せり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鶴子はホテルを出て梅雨晴つゆばれの俄に蒸暑くなった日盛りをもいとわず、日比谷ひびやの四辻から自動車をやとって世田ヶ谷に往き良人の老父をたずねて、洋行のはなしをすると
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いでわれみづから往いて求めんとて、朝まだきに力強き漕手こぎて四人をやとひ、みなと舟出ふなでして、こゝかしこの洞窟より巖のはざまゝで、名殘なごりなく尋ね給ひぬ。
当時一書の至る毎に、諸子は副本六部を製した。それは善書の人をやとつて原本を影写せしめたのである。此六部は伊沢氏兄弟一部、渋江、小島、森、狩谷各一部であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
星巌夫妻は東金を発して勝浦を過ぎ房州の沿岸を廻って洲ノ崎、館山たてやまを経て富津ふっつに来り、木更津きさらづより水路を行徳に還った。行徳より更に舟をやとい江戸鉄砲洲に向ったのは七月の某日であった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
我等はこゝに朝餐あさげして、公子夫婦は午時ひるどきまで休憩し、それよりうさぎうまやとひてチベリウス帝の別墅べつしよあとを訪はんとす。
蘭軒は医心方を影写するに、島武たうぶと云ふものの手をやとつた。そして自らこれに訓点を施した。島武は或は彼の儒門事親を写した高島信章と同人ではなからうか。跋にかう云つてある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
汽車で上野に着いて、人力車をやとって団子坂だんござかへ帰る途中、東照宮の石壇の下から、薄暗い花園町に掛かる時、道端にむしろを敷いて、球根からすぐに紫の花の咲いた草をならべて売っているのを見た。
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)