候文そうろうぶん)” の例文
維新以来二十年間沈黙した海舟伯までが恭謹なる候文そうろうぶんの意見書を提出したので、国論忽ち一時に沸騰して日本の危機を絶叫し
候文そうろうぶんの如きものを遠い過去に描いている吾々も、沖縄に来てみれば、それが現に、活々と用いられている日常の言葉だということを知るのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
重ねて云うが斯様かような型破りの手紙を差上げる失礼を幾重にもお海容下されたい。———と、貞之助はそう云う意味を、特に意を用いて鄭重ていちょう候文そうろうぶんで書いた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
手紙には必ず候文そうろうぶんを用いなければならなかった時代なので、その頃の女は、すずりを引寄せ筆をれば、文字を知らなくとも、おのずから候可く候の調子を思出したものらしい。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は、とんでもない無礼をいたしました。私の身のほどを、只今、はっと知りました。候文そうろうぶんなら、いくらでもなんでも。他人からの借衣なら、たとい五つ紋の紋附もんつきでも、すまして着て居られる。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
最近の候文そうろうぶん時代まで、守りつづけていたおおやけの過失のためであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いつもの人なつかしい言文一致でなく、礼儀正しい候文そうろうぶん
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
十二になる筆子ふでこのは、四角な字を入れた整わない候文そうろうぶん
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、貞之助と同じく巻紙に毛筆で、「候文そうろうぶん」ではないけれどもよく行き届いたソツのない書き方がしてあった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして用いられる言葉も、ごく古い和語であって、今も候文そうろうぶんがそのまま活きた会話であります。「そうらえ」とか「はべれ」とかいう言葉で今も語り合うのは、もうこの沖縄だけとなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
両三日前にお申越し下されば、大体土曜日曜ならばいつにても都合がつく、なお詳細は電話を以てお打ち合せ下さっても結構である、と、巻紙に候文そうろうぶんしたためてあり、書体、文体等も型通りで
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)