倏忽しゅっこつ)” の例文
たちまち降ってはたちまち晴れるというような倏忽しゅっこつの感じなどが、秋よりもむしろ冬のものとして格別の興味のあるところから
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
初めは呻吟しんぎん、中頃は叫喚きょうかん、終りは吟声ぎんせいとなり放歌となり都々逸どどいつ端唄はうた謡曲仮声こわいろ片々へんぺん寸々すんずん又継又続倏忽しゅっこつ変化みずから測る能はず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
焼酎で赤くなった顔に倏忽しゅっこつとして満足げな微笑を浮かべ、彦太郎は、そうか、誰から聞いた、あんた、とたずねた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そうしてさらに六年の月日が、倏忽しゅっこつして過ぎ去った時、土屋庄三郎昌春が、この教団へ紛れ込んだのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
余はしゅっと云う音と共に、倏忽しゅっこつとわれを去る熱気が、静なる京の夜に震動を起しはせぬかと心配した。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほととぎすの倏忽しゅっこつな感じと、子供が駈けて来る動作との間に、自ら相通ずるものがあるのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
文人乎、非文人乎、英雄乎、俗人乎、二葉亭は終にその全人格をひとにも自分にも明白に示さないで、あたかも彗星の如く不思議の光芒こうぼうを残しつつ倏忽しゅっこつとして去ってしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
白鞭を以て地を築いてあなと成す、虫を中に置き、その上に沃盥よくかんす、少頃しばし蠕々ぜんぜん長きがごとし、竅中きょうちゅう泉湧き、倏忽しゅっこつ自ずからわだかまる、一席のごとく黒気あり香煙のごとし、ただちに簷外えんがいに出で
パリス 青い入江を行き過ぐる倏忽しゅっこつの白帆のかげに美を覚り……。
さて倏忽しゅっこつと月日が経ち、冬が信濃へ訪れてきた。雪に蔽われた富士見高原、寒々として真っ白だ。そこへ現われた二つの人影、虚無僧姿のイスラエルのお町、道中師風の早引の忠三。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
理窟をいえば稲妻と行燈あんどんの灯が消えるのと、別に関係があるわけではない。ただ稲妻がぴかりとさす、行燈の灯がぱっと消える、という倏忽しゅっこつの感じを捉えたところに、この句の面白味があるのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
倏忽しゅっこつに時は過ぎ行く秋の雨
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
声だけが突然土から生れ、倏忽しゅっこつと空へ消えたようであった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
倏忽しゅっこつの感じである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
しかし火柱は倏忽しゅっこつと消えた。辻を東へ曲がったらしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こうしてまたも五年の月日が倏忽しゅっこつとして飛び去った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)