俎上そじょう)” の例文
それから僕は、その『ゴンザーゴ殺し』の三たびスライスを再び俎上そじょうに載せて、今度は反対に、下降して行く曲線として観察したのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
貴殿の態度は俎上そじょうの鯉、尾鰭おひれをたたんで静まったというもの。勇士でなければとても出来ない。……なんと方々そうではないか
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
美奈子は、俎上そじょうに上ったような心持で、母の言葉をじっと聴いている外はなかった。恥かしさと悲しさとで、裂けるような胸を持ちながら。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だから、非常にひよわなさかなのように思われているが、その実、鮎は俎上そじょうにのせて頭をはねても、ぽんぽんおどり上がるほど元気溌剌はつらつたる魚だ。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
どんな事をしても、この数日中に大谷千尋を逮捕し、法の俎上そじょうに上せなければ私は腹でも切らなければならない。
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
現在までの物理学はまだそれらを問題として捕捉ほそくし解析の俎上そじょうに載せうるだけに進んでいないように見える。
物理学圏外の物理的現象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
塀の外で調餌室を想像しているのと、こうやって大きな俎上そじょうに、血のタラタラにじみでそうな馬肉ばにくかたまりを見るのとでは、まるっきり調餌室というものの実感が違った。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そう云って三人の妹たちは、ひとしきり姉を俎上そじょうに載せて笑い話をしたことであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分は甘んじて俎上そじょうに横たわろうと思う。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
っと焔のように染めている、陽の反映を頭上に浴びながら、法水は犯人クリヴォフを俎上そじょうのぼせて、寸断的な解釈を試みた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こうしてうなぎの体に力の入った瞬間に、職人はすっとそれを前へ押し出すようにして俎上そじょうに載せてしまう。だから見ていると実に不思議なほど簡単だ。
美味放談 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
自殺で済ませば済んだのを、うっかり銭形平次を誘い出して、恋人まで疑いの俎上そじょうに上せるようになったのは、若い勝気な娘の我慢のならぬことだったのです。
そうしてはなはだ苦々にがにがしくも、おこがましくも感ずるのであるが、それをあえて修飾することなくそのままに投げ出して一つの「実験ノート」として読者の俎上そじょうに供する次第である。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
以下一々について各店主人の持つ寿司観の長短を俎上そじょうに載せて見よう。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)