余音よいん)” の例文
旧字:餘音
格別! と言い切って、口をまた固く結んだその余音よいんが何物を以ても動かせない強さに響きましたので、いまさらに女は狼狽ろうばいして
とにかく吉川はやっとに落ちたらしい言葉遣ことばづかいをして、なおその当人の猿という渾名あざなを、一座をにぎわせる滑稽こっけい余音よいんのごとくかえした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春の夜の寒さを呼び出すような按摩の笛が、ふるえた余音よいんを長くひいて横町の方から遠くきこえた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あたりがしずかなので、戸をしめきっても、四方に余音よいんつたわる。蓄音器があると云う事を皆知って了うた。そこで正月には村の若者四十余名を招待しょうだいして、蓄音器を興行こうぎょうした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
香水の表情の音色を譬へてみると、私語ささやき、口笛、草笛、銀笛、朝鮮がねの夕暮余音よいん、バイオリン、クラリネツト、バス、テノル、蝶の羽ばたき、木の葉のかすれ、雛のふくみごゑ等がある。
だが、お銀様にとっては、この「繊々初月上鴉黄」という一句が、また、なかなかに恨みの余音よいんを残している一句でありました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その結果として余は今でも時々どんと云う余音よいんのないぶっ切ったような響を余の鼓膜の上に錯覚のごとく受ける。そうして一種云うべからざる心持を繰り返している。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊勢から東海道を下る時に、たしか浜松までは、その一管の尺八に余音よいんをこめて旅をして来たはずです。浜松へ来て、お絹に逢ってから尺八を捨てました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、余音よいんをことさらに長くひっぱって空嘯そらうそぶいていましたが、そのうちになんとなく、自分も悲しくなりました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藍玉屋あいだまやの息子で金蔵という不良少年は、締りのない口元から、惜しいものだね——と、ね——に余音よいんを持たせて、女の入って行ったあとを飽かずに見ていたが
余音よいんを残して尺八が行ってしまったあとで、竜之助は再びこの歌をうたってみました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
客ニ洞簫とうしようヲ吹ク者アリ、歌ニヨツテこれヲ和ス、其ノ声、嗚々然おおぜんトシテ、うらムガ如ク、慕フガ如ク、泣クガ如ク、訴フルガ如シ、余音よいん嫋々じようじようトシテ、絶エザルコトいとノ如シ、幽壑ゆうがく潜蛟せんこうヲ舞ハシ
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)