余瀝よれき)” の例文
旧字:餘瀝
夜の十二時にもならなければなかなか陸風がそよぎはじめない。室内の燈火が庭樹の打水の余瀝よれきに映っているのが少しも動かない。
夕凪と夕風 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは允成が公退した跡になると、女中たちが争ってその茶碗ちゃわんの底の余瀝よれきを指にけてねぶるので、自分も舐ったというのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すなわち今日においての西野文太郎を出し、来島恒喜くるしまつねきを出したるものまたいずくんぞ彼が熱血の余瀝よれきならざるを知らんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
氏郷は、ハハハ、飲まねば卑怯ひきょう余瀝よれきも余さず飲んだわやい、と答える。家来達はギェーッと今更ながら驚き危ぶむ。そあれ、水を持て、と氏郷が命ずる。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
金銀小判大判。新鋳の南鐐銀のたぐひ花模様絨氈の床上に散乱して、さながらに牛馬の余瀝よれきの如し。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おしゃぶりも、ピーピーも、風車も、でんでん太鼓もケシ飛んで、ミルクであり、摺粉すりこであるべき徳利はくわえ出されて、その余瀝よれきが餓えたる犬のむさぼり吸うところとなりました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この時これを惜んで一夜ひとよを泣き明したのは、昔抽斎の父允成ただしげの茶碗の余瀝よれきねぶったという老尼妙了みょうりょうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうしてその間に何かうまい汁がありとすれば、その余瀝よれきすすって、皿までかじろうという先生だから、お松に尋ねられたことも、素直には言ってしまわないことはわかっています。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)