何所いずこ)” の例文
われらは人間の有する性情を「何所いずこより」「何処いずこへ」「何のために」「かくあるべし」と詮索するよりも「何である」と内省することこそ緊要である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
前にも言った通り如何に文学といえども決して倫理範囲を脱しているものではなく、少くも、倫理的渇仰の念を何所いずこにかきざさしめなければならぬものであります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
防がんが為めに殊更奪い隠したる者ならん故に何所いずこの者が何の為めに斯く浅ましき死を遂げしや又殺害したる者は孰れの者か更に知る由なければ目下厳重に探偵中なり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
僕はしばらく立って何所いずこを眺めるともなく、民子の俤を脳中にえがきつつ思いに沈んでいる。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
妖精ようせいというものは姿すがた可愛かわいらしく、こころわかく、すこしくこちらで敵意てきいでもしめすと、みなこわがって何所いずこともれず姿すがたしてしまう。人間界にんげんかい妖精ようせい姿すがたものが、たいてい無邪気むじゃき小児しょうにかぎるのもそのせいじゃ。