他事よそごと)” の例文
何事を歎いているのかと、初めは武蔵も他事よそごとに聞いていたが、どうやら、母子おやこの対象としている者は、自分以外の他人ではないらしい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今に始まったことでない弁信さんの取越し苦労——それを他事よそごとに聞いていたのが、追々にわが身にむくって来るのではないか。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大槻が転居するという噂は、私にとって全然まるきり他事よそごとのようには思われなかった、私はそれとなく駅長の細君に、聞いて見たが噂は全く事実であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
僕はいつも他事よそごとながらしやくにさはるやうに感ずるのだが、そら君、此家ここの夕食の膳立を知つてるだらう。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
まるで他事よそごとを考えて居られるのではないかと思われるような、味気ない態度であった。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
他事よそごとのようにしか感じられないほど、閑寂であった。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを存外、買方は気にかけていないようだが、さあ、この後日がどうなるかと、お角は他事よそごとでないように案じました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つい、他事よそごとのみ申し上げたが、そうした自分の衷心ちゅうしんです。……実は一昨日、伊勢守どのに拝顔の折、よほどお打明けして、と存じたが、貴僧にこう申すようには云えぬのでござった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵部の娘と、茂太郎は、これを他事よそごとのようにして、黒船を右にしながら、散歩気取りで、海岸をずんずん南の方へ歩いて行きました——先日海竜が出たあの海岸の方へ。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とやや慌て気味に立ち上がったのは、今まで他事よそごとに聞き流していた玄蕃だった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとり机竜之助は、呆然ぼうぜんと立ってこの有様を少し離れた物蔭から他事よそごとのように見ています。
平田氏は所謂世間には不人気でけむたがられたけれども、その後、漸く堅実な人気を以て、遂には大久保卿以来の内務大臣だとまで云われるようにもなった、余輩が他事よそごとながら弁護した点に
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)