仕甲斐しがい)” の例文
今こそ、まことのこころを持ったひとにようやくめぐり逢うことが出来たのです。本当に永い苦労の仕甲斐しがいがあったと云うものです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
自分の腕一つで柳吉を出養生させていればこそ、苦労の仕甲斐しがいもあるのだと、柳吉の父親の思惑おもわくをも勘定に入れてかねがね思っていたのだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
草や虫や雲や風景を眼の前へ据えて、ひそかに抑えて来た心を燃えさせる、——ただそのことだけが仕甲斐しがいのあることのようにたかしには思えた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それは、判任官が高等官になり勅任官になるよりも、もっと仕甲斐しがいのある出世かも知れなかった。
出世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さあ、これから、勝祝いに酒盛りと出かけますかね——皆さん、ごくろうさま——でも、あんまり、手もなくたおされてしまったので、見物の仕甲斐しがいがありませんでしたよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
規律にたわめられ、自分の仕事に心を奪われ、仕甲斐しがいのない職業のためにたいていは多少とも苛辣からつになっていて、オリヴィエが自分らと異なったことをやりたがるのを許し得なかった。
ジタバタしたって仕甲斐しがいはない。……それから組紐のお仙さんだが、これは別段太郎丸様が、ご用というのでもないのだがね、だがお前さんも美しい、浜路さんとはうっつかっつさ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お前の病気にがあるものならば……ずいぶん命がけの旅もしてみましょうけれど、事実ホンのうわさだけで、それほどの旅を、仕甲斐しがいがあることやら、ないことやら……一つ間違えば……いったい
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どころか、「女房や子供捨てて二階ずまいせんならん言うのも、言や言うもんの、蝶子が悪いさかいや」とかえって同情した。そんな父親を蝶子は柳吉のためにうれしく、苦労の仕甲斐しがいあると思った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)