人型ひとがた)” の例文
この人を思う心も縷々るると言われるのに中の君は困っていて、恋の心をやめさせるみそぎをさせたい気にもなったか、人型ひとがたの話をしだして
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうした凄愴せいそうな空気の中で、法水は凝然とまなこを見据え、眼前の妖しい人型ひとがたみつめはじめた——ああ、この死物しぶつの人形が森閑とした夜半の廊下を。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「イヤ、案山子じゃない。こんな立派な案山子があるもんか。仲々重いのだよ、呪いの人型ひとがただよ」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
本館からとり寄せた綾子夫人の洋服を、この壁の上にしるし出された人型ひとがたの上に重ねてみますと、正しくピタリと大きさが合うではありませんか。肩胛骨けんこうこつ臀部でんぶのあたりは特によく一致していました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの人型ひとがたがほしいと言った人に与えたいとその人のことが中の君の心に浮かんだちょうどその時に、右大将の入来を人が知らせに来た。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その中を歩んで行くうち、ふと正門近くで法水は不思議なものにぶつかった。小さな人型ひとがたをした真黒な塊が、突然横町から転がり出したのである。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
昔の方の人型ひとがたはらいをして人に代わって川へ流すもの)か肖像を絵にかせたのかを置いて、そこで仏勤めをしようという気に近ごろなりました
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
田舎いなか風に洒落しゃれたところができていて、品悪く蓮葉はすっぱであれば、人型ひとがたもまた無用とするかもしれないのであると思い直しもした。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
宮の夫人があの姫君のことを初めに戯れて人型ひとがたと名づけて言ったのも、川へ流れてゆく前兆を作ったものであったかと思うと、何にもせよ自分の軽率さから死なせたという責任も感じられた。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)