主家おもや)” の例文
彼女も主家おもや離家はなれとの往復のほかには、家事向きの用事らしい用事もなく、いつも二人はいつしよにられた。私は退屈の時には本を讀んだ。
雪をんな (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
隆夫は、めったに主家おもやに顔を出さなかった。それは治明博士が隆夫のために、例の無電小屋を居住宅すまいにあてるよう隆夫の母親にいいつけたからである。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小さくとも寺であるから主家おもやを御堂と呼び、その上の空に山々の聳えてゐるのを禅宗寺院に因んで五山と呼び、松風を添へて山寺の風致を引き出すわけである。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
……はいったが最後天罰が……だが待てよ、そこから手が出た? とするとあの女の手なんだろうが、おいらあの女とは今しがたまで、別棟の主家おもやで話していたんだ
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
要するに、従来のいわゆる統計物理学は物理学の一方のひさしを借りた寄生物であったのであるが、今ではこの店子たなこ主家おもやを明け渡す時節が到来しつつあるのではないか。
量的と質的と統計的と (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
主家おもやつづきに牛舎があり、中庭を隔てて、一層古びてくずれかけた茅舎かややの穀物納屋もあった。その間の庭の突き当りに細丸太の木柵があり、その外は野菜畑やクローバーの原っぱになっていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
店になっている主家おもやの二階の一部に、十畳と八畳とがつづいた座敷があった。ここには縁側もついていて、家で一番立派な部屋であった。しかしこれは客間であって、使うことは、滅多になかった。
私の生まれた家 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
二人は並んで主家おもやの方へ引き返えした。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
主家おもやの前の植え込みの中に娘が白っぽい着物に赤い帯をしめてねこを抱いて立っていた。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その中に、主家おもやの外に牛舎か何かの建増しをしている露人の一戸があった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
もっともそれは主家おもやから廊下ろうかがのびてきているとっつきの部屋であった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この時主家おもやの方角から、喧騒の声が聞こえてきた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)