丸火鉢まるひばち)” の例文
今年ことしも来月一月ひとつきだもの。」と女は片手に髪を押え、片手に陶器の丸火鉢まるひばちを引寄せる。その上にはアルミの薬鑵やかんがかけてある。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この希望きぼうも、たちまちたっせられたのは、十何年なんねんまえに、ちちが、おき時計どけいった、古道具屋ふるどうぐや主人しゅじんが、有田焼ありたやきおおきな丸火鉢まるひばちを、とどけてくれたからでした。
時計と窓の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
主人は六畳の居間に、例の通り大きな瀬戸物の丸火鉢まるひばちかかえ込んでいた。細君の姿はどこにも見えなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四条派ふうの金屏風きんびょうぶめぐらした中に、鏡台、化粧品置台おきだい丸火鉢まるひばちなどを、後や左右にして、くるりとこっちへ向直むきなおった貞奴は、あの一流のつんと前髪を突上げた束髪で、キチンと着物を着て
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ビールでもんで帰るくらいで、外で呼ぶことになっていたが、長いあいだ月々世話になっている弁護士の来る日は二階を綺麗きれいに掃除させ、きり丸火鉢まるひばちに火を起こし、鉄瓶てつびんの湯をたぎらせたりして
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
去歳こぞの冬江戸庵主人画帖がじょう一折ひとおりたずさきたられ是非にも何か絵をかき句を題せよとせめ給ひければ我止む事を得ず机の側にありける桐の丸火鉢まるひばちを見てその形を写しけるが
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)